I. 研究の動機および目的
我が国の養豚業における飼料費は,経費の5割から7割を占めています。飼料の約7割は海外からの輸入に頼っており,飼料原料や輸送費の高騰により価格の高止まりが畜産農家を悩ませています。本校(熊本農業高校)では豚を飼育しており,過去4年間の経費を見ると約6割が飼料費になっています(図1)。特に,肥育時には配合飼料を多給するため,肥育豚の飼料費は飼料費全体の約7割を占めています。このため,肥育時の飼料費をいかに削減できるかが本校の養豚経営において最も大きな課題です。私たちは,飼料費を削減する方法のひとつとしてエコフィード」があることを畜産の授業で学習してきました。エコフィードとは,環境を意味するエコ(eco)と飼料を意味するフィード(feed)を併せた言葉で,食品廃棄物を利用して作られる飼料のことです。修学旅行で神奈川県にあるフードエコロジーセンターを見学する機会がありました。ここでは,食品廃棄物を加工し,飼料製造を行っています。社長の高橋氏からは,国内の食品廃棄物は多量であ,環境汚染の原因になっている。しかし,その多くは家畜にとって必要な栄養素を含んでおり,飼料としての利用価値がある。」と教えてもらいました。そこで私たちは,飼料費を削減でき,自給率の向上にもつながる有効な手段として,養豚へのエコフィードの活用を試みました。エコフィードの給餌は,豚の肉質にも影響すると考えられるため,タンパク質等の栄養バランスを考えた飼料設計を行い肉質の向上を図りました。本プロジェクトでは、「低コストで高品質な豚肉生産」を目標に掲げ活動を始めました(図2)。
II. 研究の方法と結果
a) 食品廃棄物の利用
飼料の開発に活用できそうな地域資源を探したところ,5つの企業から納豆,パン,米粉,もやしカス,テングサを頂くことができました(表1)。この5種類の原材料を活用して,飼料開発を始めました。
1) し好性
各種エコフィードに対する豚の好みを調べるため,し好性の調査を行ったところ,米粉は粉末状態で食べにくく,低いし好性を示しました。そこで米粉に水を加えて給与すると,し好性が改善し飼料として活用できることが明らかになりました。
2) 水分含量
各食品廃棄物を恒温乾燥器で乾燥させ,水分量を調査したところ,もやしカスとテングサの水分含量が原物中の約80%と多いことが分かりました。
b) 飼料調製
1) 飼料発酵調査
飼料の水分含量が多いほど腐敗が進みやすく長期間の保存が難しくなります。腐敗を防ぐ方法を東海大学農学部家畜栄養生理学研究室のプラダン准教授に相談したところ,飼料のpHを4以下に保つと雑菌の繁殖は抑えられる」とアドバイスを頂きました。そこで,牛の飼料で活用されている乳酸発酵を利用して保存性を高めることにしました。乳酸発酵について文献で調べると,水分含量・温度・期間が発酵に大きく関与することが分かり,以下の実験を行いました。
5種類の食品廃棄物を混ぜ合わせてエコフィードを調製し、表2に示した4つの要因の影響を調べるため飼料のpHを測定しました。エコフィードの保存場所として倉庫とビニールハウスを設定し比較したところ、ビニールハウスの方が高温で温度変化が激しいが、発酵度合に差は見られず、どの試験区においても4週間の保存期間でpHは4以下に低下しました(図3)。また、乳酸菌を添加していない区でもpHが4以下であり(表3)、すべての試験区で3か月以上保存が可能でした。しかし、なぜ乳酸菌なしでも発酵できたのでしょうか。その疑問を解決するために、原材料の配合を変えて(パンなし、納豆なし、両方

1. 食品廃棄物の利用
- 飼料作製
- 豚の生育調査
- 豚肉の肉質調査
- 専門家による評価
- 情報発信
表1. 飼料活用候補となる地域飼料資源
| 提供元 | 飼料原材料 |
| 九州大豆食品 | 納豆 |
| 熊本県パン協同組合 | パン |
| 瑞鷹酒造 | 米粉 |
| マルキン食品 | もやしカス |
| 熊本製萌 | テングサ |
表2. 飼料調製の試験条件
| 要因 | 水準 |
| 水分含量 | 40, 50, 60, 70% |
| 保存期間 | 1, 2, 3, 4週間 |
| 保存場所 | 倉庫, ビニールハウス |
| 乳酸菌 | 添加, 無添加 |
なし)乳酸菌を添加せずに再度発酵具合を調査しました。すると,納豆入りの飼料で低いpHを示し,納豆菌の働きにより雑菌の繁殖が抑制されていることが推察されました(図4)。この結果をもとに,納豆菌を活用した長期保存可能な本校独自の飼料を作製することにしました。
2) 飼料設計
家畜飼料設計データを参考に栄養バランスと肉質を考慮した飼料設計を行い,水分含量40%でエコフィード100%の配合飼料を作製し,「エクセレント」と名付けました。市販飼料の価格は1kg当たり55.3円に対し,「エクセレント」では2.7円であり,飼料価格を約20分の1にすることができました。
c) 豚の生育調査
私たちは,三元交雑種を母豚とし,肉質の向上が見込める黒豚で有名なバークシャー種を掛け合わせた四元豚を合計10頭実験に用いました。エコフィード区の飼料を「エクセレント」対照区の飼料を市販飼料として,各5頭ずつ,肥育期間80日間として比較実験を行いました。
1) 摄取量
飼料の残さ量から摂取量を推定しました。対照区に比べてエコフィード区の方が約1.5倍多く食べており,食品廃棄物の有効活用にさらに貢献できることが示されました。
2) 健康調查
エコフィードを給与しても豚の健康に影響がないかを調べるため, 熊本県家畜保健衛生所に依頼して調査前後での血液検査を実施しました。両区ともに大きな変化は見られず, エコフィードが利用可能であることがわかりました。
d) 豚肉の肉質調査
1) 肉の見た目
豚肉の赤身色・脂肪色の判定を、ポークカラースタンダー


表 3. 乳酸菌添加の有無による飼料pHの推移(4週間保存)
| 保存場所 | 乳酸菌添加 | 水分含量(%) | |||
| 40 | 50 | 60 | 70 | ||
| ビニールハウス倉庫 | あり | 3.7 | 3.7 | 3.5 | 3.59 |
| なし | 4 | 8 | 9 | 3.54 | |
| あり | 3.9 | 3.7 | 3.6 | 3.81 | |
| なし | 6 | 2 | 9 | 3.63 | |
| 3.8 | 3.7 | 3.6 | |||
| 9 | 4 | 6 | |||
| 3.9 | 3.7 | 3.6 | |||
| 0 | 3 | 7 | |||


シンデレラポーク



表4. 食品廃棄物の削減効果
| 年 | 食品廃棄物量(t) |
| 平成28年 | 186.8 |
| 平成29年 | 149.9 |
ドを使用して調査しました。赤身と脂肪の両方において,色と光沢が良く市販飼料で育てた豚肉よりも高い評価でした。
2) 遊離アミノ酸・遊離脂肪酸
豚肉に含まれる遊離アミノ酸含量を調べるため、熊本県産業技術センターの峯田氏に教わりながら分析を行いました。豚バラ、ロース、モモ100gに含まれる遊離アミノ酸含量を分析したところ、エコフィード区の方がうま味成分であるグルタミン酸や、美味しさに関与するグリシン、アラニンなどが全体的に高い数値を示しました(図5)。さらに、肉の美味しさの指標とされる遊離脂肪酸量を分析したところ、オレイン酸とα-リノレン酸もエコフィード区で高い値を示しました。
e) 専門家による評価
飼料成分を分析し,丸永株式会社の西氏に飼料設計を評価して頂いたところ,「バランスをよく考えてありこれは良い飼料と言えす。」と高い評価を頂きました。食品廃棄物を有効活用することで飼料費を大幅に削減でき,さらに美味しい豚肉生産に繋がりました。この魔法のような結果から,この豚を「シンデレラポーク」と名付けました。図6は私達が考案したマスコットです。
f) 情報発信
多くの方に食べてもらいたくて,精肉販売会を実施しました(図6)。購入して頂いた方からも,「ここの豚肉はよそのとは味が違っておいし
かったよ」と好評でした。また,この取り組みを発信するために,お披露目会を本校で開催しました。関係機関の方々を招待し,試食会を実施したところ「脂が甘く臭みがないのでエコフィードを活用した肉とは思えない」,養豚農家からも「我が家でもエコフィードを利用してみたい」と高い評価を頂きました。
III. 成果
a) 経営面の変化
肥育豚の飼料費は一頭当たり市販飼料区で13,880円,エコフィード区では950円となり12,930円削減され,全体では47.5万円の飼料費を削減できました。また,高品質な肉に仕上がり精肉の販売許可を取得し,「シンデレラポーク」として販売活動を行ったことで,1頭当たり約2倍の収益増加に繋たり約2倍の収益増加に繋がりました。
b) 地域との連携
食品廃棄物を活用したことで,5つの企業の廃棄物を合計約37トン削減し,廃棄処理にかかる企業経費を合計約80万円抑えることができました(表4)。この研究成果を発信したことで,地元の畜産農家5件が米粉や納豆の食品廃棄物を利用するようになり,私達の取組が徐々に広がりを見せています。今後は,エコフィード認証を取得して,さらなる情報発信を行い,「日本の畜産農家が食品廃棄物を家畜用飼料として利用する資源循環型社会」,そんな未来を私達高校生の若い力で実現させたいです。「シンデレラポーク」による魔法を信じて......。
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